借金返済|破産した公務員の退職金を事務組合は差し押さえられるか?

控訴
主張
損害

主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島田清,同長谷則彦の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,Dに勤務する地方公務員であった者である。
(2) 被上告人は,上告人から,平成元年8月14日から平成13年6月29日にかけて,5回にわたり,合計1200万円の貸付け(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」という。)を受けた。
(3) 被上告人は,平成14年6月10日午前10時,徳島地方裁判所において破産宣告を受け,破産管財人が選任された。
(4) 被上告人は,平成14年12月31日,Dを退職した。
(5) 被上告人の給与支給機関であるE事務組合(以下「本件事務組合」という。)は,1平成15年2月3日ころ,上記破産管財人に対し,被上告人の破産宣告時に退職したとすれば支給されたであろう退職手当に相当する1841万5200円の4分の1に当たる460万3800円を破産財団に属する財産として交付し,2そのころ,上告人に対し,地方公務員等共済組合法(以下「地共法」という。)115条2項に基づき,被上告人に支給すべき退職手当(以下「本件退職手当」という。)の中から本件各貸付金残金に相当する431万0293円を控除してこれを払い込み(以下,この払込みを「本件払込み」という。),3その後,被上告人に対し,破産財団に組み入れられた上記460万3800円及び本件払込金431万0293円を控除した残りの退職手当を支給した。
(6) 被上告人は,本件払込みに当たって,上告人又は本件事務組合との間で,地共法115条2項所定の方法(組合員の給与支給機関が組合員において組合に対して支払うべき金員を給料その他の給与から控除して組合員に代わって組合に払い込む方法。
以下「地共法の弁済方法」という。)により,本件退職手当の中から本件各貸付金残債務を弁済することにつき合意をしたことはなかった。
2 本件は,上記事実関係の下において,被上告人が上告人に対し,上告人が本件各貸付金残債務の弁済として本件払込金を受領したことは,法律上の原因を欠くと主張して,本件払込金につき不当利得返還請求をした事案である。
3(1) 【要旨1】被上告人の破産事件について適用される旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)においては,破産財団を破産宣告時の財産に固定する(6条)とともに,破産債権者は破産手続によらなければその破産債権を行使することができない(16条)と規定し,破産者の経済的更生と生活保障を図っていることなどからすると,破産手続中,破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対して強制執行をすることなどはできないと解されるが,破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられないと解するのが相当である。
もっとも,自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり,破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると,破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり,少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない。
そして,地共法の弁済方法は,組合員の給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず,組合員が破産宣告を受けた場合において,地共法115条2項により,組合員の自由財産である退職手当の中から組合の破産債権につき地共法の弁済方法で弁済を受け得る地位が組合に付与されたものと解することはできない(最高裁昭和62年(オ)第1083号平成2年7月19日第一小法廷判決・民集44巻5号837頁参照)。
(2) 上記説示によれば,【要旨2】組合員の破産手続中にその自由財産である退職手当の中から地共法の弁済方法により組合員の組合に対する貸付金債務についてされた弁済が,組合員による任意の弁済であるというためには,組合員が,破産宣告後に,自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら,その自由な判断により,地共法の弁済方法をもって上記貸付金債務を弁済したものということができることが必要であると解すべきである。
これを本件についてみると,被上告人が,本件払込みに当たって,上告人又は本件事務組合との間で,地共法の弁済方法により本件退職手当の中から本件各貸付金残債務を弁済することにつき合意をしたことはなかったというのであり,他に任意性を肯定し得る事情がうかがわれない本件においては,本件払込みが被上告人による任意の弁済であるということはできない。
(3) 以上によれば,上告人は,法律上の原因なく本件払込金を利得したことになり,他方,被上告人は,同額の損失を被ったものということができるから,被上告人は,上告人に対し,本件払込金につき不当利得返還請求権を有するものというべきである。
4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。
論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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